02.ふいうちA






ついさっきまでは他愛のない話をしていたはずだったのに、気づいた時には目の前に・・・顔があった。
驚いて閉じる間もない瞳に映っているのは、真っ赤な顔をしてギュッと目を閉じているイノリくんの顔。

ぎこちないキスは唇と唇が触れ合うような優しいものじゃなかった。
僅かに開いた唇に当たる硬いものは・・・多分、歯だろう。

ふいうちのキスを受けながら、なんてイノリくんらしいキスなんだろうって考えてた。



やがて目を開けたイノリくんと目が合うと、耳まで真っ赤に染めながらそれを隠すようにあたしの身体を抱きしめた。

逃さない、とでもいうように強くキツク抱きしめられた身体。

その力強さが心地よくて、イノリくんに身体を預けるよう力を抜くと、耳元でいつもの声が聞こえた。

「・・・オレ、謝らねぇから!」

「イノリくん?」

「オレは、が好きだ!」

「・・・」

「好きになったらどうなるのかって、分かんねぇけど・・・お前と話してたら、何か急に・・・その、・・・」

言い渋るのは想いが大きすぎて言葉に収められないから。
それがまたイノリくんらしくて、そんな彼からのキスだったから嬉しかったんだって思った。
だから一生懸命言葉を選ぶイノリくんの想いに応えるよう、あたしは僅かに顔をあげてイノリくんの頬に・・・キスをした。

「・・・へ?」

「お返し。」

「・・・」

「あたしも、イノリくんが・・・」





続きの言葉は、抱きしめられた腕の中に飲み込まれてしまった。

温かくて力強い、イノリくんの腕の中に・・・





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